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治療

関節リウマチの薬物治療

関節リウマチとは

関節リウマチは自己免疫疾患のひとつです。関節滑膜に免疫の異常が起きて滑膜の腫脹、増殖が起こり、痛み、腫れ、こわばりなどの症状が現れます。進行すれば骨や軟骨にびらんと呼ばれる欠損部ができ、さらには関節の変形、破壊に陥ることがあります。図1の赤い部分が関節滑膜の増殖で茶色の部分が骨のびらんです。図2は実際レントゲン写真での骨びらんです。この関節破壊は病気の初期から起こることが分かっていますので早期発見、早期治療が必要です。関節リウマチは、全国に80万人の患者さんがいると推測され女性に多く30~50歳代で多く発病します。

図1
図2

診断と検査

関節リウマチを確実に診断できる簡単な検査方法はありません。そのため病歴、身体所見、血液検査、画像診断を総合的に判断することが必要です。当院では画像診断として、関節レントゲンはもちろん、関節エコー、関節MRI、骨シンンチグラフィー等を必要に応じて実施をしています。図3は関節のエコー所見です。

図3

リウマチ治療の目標

関節リウマチの治療の目標は関節の痛みと腫れを抑えるだけでは不十分です。将来的に関節機能を保持し日常生活のレベルを維持できることが大切です。近年、新しい薬が開発され多くの患者さんが不自由の少ない生活を継続できることが可能となりました。

リウマチ治療の実際

関節リウマチ治療の基本は薬物療法です。かつては抗炎症剤(ステロイド剤、非ステロイド剤)と金製剤が治療の中心でしたが1999 年にリウマトレックスが、2003年からは生物学的製剤が使えるようになりリウマチの治療は急速に進歩しています。

治療の第1段階

リウマトレックス

リウマトレックスは関節リウマチにおいて世界で最も標準的な抗リウマチ薬です。2011年からは日本でもリウマチの第一選択薬として使用することが可能になりました。ほとんどの関節リウマチの患者さんに投与が考慮されるべき治療薬です。治療継続率も高く、当院でも80%近くの患者さんが服用されています。その理由は高い有効性、比較的安価であること、副作用のコントロールが容易であるからです。しかし、リウマトレックスが使いにくい患者さんもおられます。例えば、慢性B型肝炎の患者さん、腎機能障害のある患者さんは副作用が出やすく注意が必要です。主な副作用は肝機能障害、口内炎、胃腸障害などです。これらは葉酸を併用することで解決できます。まれな副作用として間質性肺炎、骨髄抑制、リンパ腫があり注意が必要です。図4の写真は肘部にできたリンパ腫です。副作用を避けるためにも体調不良時の服用は主治医と相談していただく必要があります。

リマチル・アザルフィジン・ケアラム・プログラフ

当院ではリウマトレックスが使いにくい患者さんにはリマチル、アザルフィジン、ケアラム、プログラフなどを服用していただいています。効果はリウマトレックスほどの切れ味はありませんが時間をかけて確実に効果を表す患者さんを多く経験しています。しかし副作用がないわけではありません。リマチルによる皮疹、蛋白尿を経験することがあります。アザルフィジンは皮疹、胃腸障害、肝障害がまれですが起こります(ケアラムは肝酵素異常、血球減少に注意が必要です。プログラフは腎機能障害、耐糖能異常に注意が必要です)。よって定期的な血液検査、検尿が必要です。幸い薬剤を中止することにより副作用は消失します。

治療の第2段階

リウマトレックス・アザルフィジン・リマチルなどによる治療の第1段階で十分な関節炎のコントロールができずまた、骨びらんが出現し将来の関節変形が予想される患者さんには第2段階の治療を勧めます。当院では生物学的製剤またはJAK阻害薬を勧めています。

生物学的製剤

生物学的製剤は2003年から国内での使用が可能になった最先端の医薬品です。従来の抗リウマチ薬に比べて切れ味が良く有効性にかなりの期待ができます。また関節破壊の抑制効果もあることが知られています。難点は薬剤費が高価であること、重篤な副作用の報告があることです。そこで生物学的製剤を導入する際に厳格なスクリーニング検査を行って副作用を避けるようにしています。当院では胸部レントゲン、胸部CT、ツベルクリン反応、クオンティフェロン、βDグルカン、肝炎スクリーニング等を実施したうえで患者さんに説明し同意を得たうえで生物学的製剤を投与します。薬剤費につきましては主治医または当院リウマチセンターの社会福祉士とご相談ください。

治療の第3段階

第2段階までの治療を試みてもまだ十分に関節リウマチの活動性をコントロールできない患者さんがまれではありますがいらっしゃいます。

次の手段としまして作用機序の異なる生物学的製剤を考慮します。また長期間治療目標を達成し維持できた場合は、治療薬の減量を考慮します。

その他

ステロイド剤

ステロイド剤は抗炎症作用があり少量でも痛みを急速に軽減することが可能でこれまで長期にわたり世界中のリウマチ患者さんに使われてきました。長期服用による副作用として満月様顔貌、糖尿病、骨粗鬆症、高脂血症、白内障、緑内障など多くの報告があり極力使用は控えたいのですが、発症初期の炎症が極めて強い場合はやむを得ず投与をします。他の抗リウマチ薬が効果を上げれば徐々に減量をするようにしています。

関節リウマチの外科治療について

関節リウマチの治療法は近年著しい進歩を遂げています。リハビリテーションやリウマチの知識の普及、何といってもリウマトレックスや生物学的製剤等の薬物治療の進歩によって、手術が必要なリウマチ患者さんはかなり減少しています。

しかし、それでも、関節破壊が徐々に進行してしまい、薬だけでは治療できない場合には、手術で関節機能の再建をはかり、患者さんの生活の質を守っています。関節リウマチで起こってくる首から手足までのあらゆる関節の障害に対し治療を行っています。

代表的な病態と手術

膝や股関節の人工関節

関節リウマチで股関節や、膝関節の破壊が進行すると、痛みが強まり、関節の動きが悪くなり、歩行が難しくなります。寝たきり防止だけでなく、買い物や外出等をはじめとして自分のことは自分でできる状態を保つために、人工関節は有効であり、当院では、この様な病態のたくさんの患者さんに人工関節置換術を行っています。

膝関節の破壊と関節の隙間の狭小化がみられます。

人工膝関節置換術術後

両股関節の隙間はほぼ消失し、深く座ることや歩行が困難の状態です。

人工股関節置換術

歩行も立ったり座ったりも容易となりました。

上肢の人工関節

関節リウマチによる手指の変形、肘の関節破壊による洗願や食事動作の障害に対し、人工肩関節、人工指関節や、人工肘関節を行っています。膝や股関節に比べると、手術が必要な患者さんの数は少なくなりますが、他の関節機能も含めた生活状態の評価、予想される関節への負担等を考慮し、手術を行うことで、手指や肘の機能を再建し自立した生活を支援します。

肘関節は全体的に壊れて、肘の曲げ伸ばしが困難なため洗願や食事動作が困難です。

人工肘関節置換術

術後食事や洗願ができるようになりました。

人工指関節置換術

関節リウマチの手関節障害に対する手術

手関節がリウマチで腫れて、炎症が長く続くと関節が徐々に壊れてしまい、手関節がゆるくなったり、関節のかみ合わせが悪くなり、手首を曲げたり伸ばしたり、内外に回したりが痛くて困難となります。さらに、指を伸ばす腱が切れてしまうことがあります。このような場合には、写真のような手関節形成術や、腱の再建を御行います。

手関節の変形と破壊が著明で、手首を回す動作が困難です。

手関節形成術後

手首を内外に回す動作は痛みなく可能となりました。

関節リウマチによる足ゆびの変形、外反母趾などに対する手術

関節リウマチでは外反母趾も起こりやすい病態です。いわゆる外反母趾は足の親指だけの問題ですが、関節リウマチでは母趾だけでなく、他の足ゆび関節も変形や脱臼を生じます。その結果、足のいろいろなところに胼胝ができて靴を履くことすら困難となることがあります。このような患者さんにもは、写真のような手術を行って足の変形を矯正して、靴を履く、歩くといった基本的な機能の再建を行っています。

足ゆびの変形

外反母趾だけでなく、全ての足ゆび関節が変形し、亜脱臼しています。胼胝が多発し、歩行時痛や、靴がはけません。

前足部形成術後

足ゆびの変形は矯正され胼胝も無くなり靴もはけ、歩行が楽になりました。

関節リウマチによる脊椎障害に対する手術

首から腰まで脊椎には多数の関節があり、ここが障害されることで首や腰や背中の痛みが生じます。ここまでは薬物療法をはじめとした保存的治療が有効です。しかし頚椎ではリウマチが進むと、頭蓋骨と頚椎の第2 番目にかけて亜脱臼を生じることがあり、頚部脊髄や延髄などの生命にかかわる重要な中枢神経の障害や手足のまひを来すことがあります。このような場合には手術を行って悪化の進行を防ぎ、麻痺の改善を目指します。

環軸椎亜脱臼

首を前に曲げると頚椎の一部が亜脱臼し、後ろにそらすと戻ります。ここで脊髄が圧迫され手足のしびれや筋力低下、時には脊髄損傷を生じ危険な場合があります。

環軸椎後方固定術

環軸椎の亜脱臼は消失し、脊柱管も元の広さとなりました。